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高知地方裁判所 昭和22年(ワ)194号 判決

原告

小川芳男

被告

宿毛町農地委員会

主文

被告宿毛町農地委員会が、昭和二十二年五月二十二日爲したる別紙、第一目録記載農地を原告より、被告押川〓次に返還すべしとの決定を取消す。被告押川〓次は原告に対し、別紙、第二目録記載農地を明渡すこと、訴訟費用は被告等の負担とする。本判決中第二項は、原告が金弍千円の担保を供託するときは仮に執行することができる。

請求の趣旨

主文第一、二、三項同旨の判決並仮執行の宣言を求めた。

事実

原告代理人は(一)原告は自作農、被告〓次は自小作農である。原告は昭和二十年四月二十五日内容証明郵便を以て、原告所有にして被告〓次の小作中なる田五筆五反八畝八歩の返還方要求したところ、訴外田中忠義、川内孫竹、沢田五十馬等の仲介により、同二十一年六月九日別紙、第二目録記載の田合計二反二畝十五歩は合意解約して、原告に返還すること、別紙、第一目録記載の土地中二七〇番の二、及び二七二番の一合計田二反二畝二十五歩は引続き被告〓次に小作させることに円満協定成立した。それで原告は返地をうけた土地を、昭和二十一年度米作より自作したが、別に其の田につき被告〓次がそれ迄に施していたすき返し費及草取賃として、千百円を原告より、同年七月二十二日同被告に支拂つた。その後原告は、右田の供出を完了し、同二十二年五月迄平穏に耕作し、同二十二年度稻作のため、五月初旬施肥し植付を準備していたところ、被告〓次は五月十四日、耕作権確立方を被告農地委員会に申請し、委員会は同月二十二日之を附議して別紙、第一目録記載の農地を原告より、被告〓次に返還すべしとの決定をなし、被告〓次は之に基き、原告耕作中の第二目録の田に不法に立入り、原告の占有を侵奪して、稻の植付をした。

しかし被告委員会の右決定は、法規上の権限なくして、行政機関が裁判を行つたもので、しかも執行委員会なるものを組織して、其の決定を強行せしめたが、かくの如きことは刑法第百九十三條にも触れるものである。

之が爲、原告は一度円満に返還を受け、平穏公然に耕作中の本件農地の占有を奪はれたものであるから、不法なる決定の取消と共に占有権に基き被告〓次に対し、土地の返還を求むるものであると述べた。被告等代理人は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として被告〓次は、昭和十七年頃其の所有の別紙第一、二目録記載の土地を何時でも買戻しうる條件付で原告に賣渡し、改めて原告から之を賃借していたが、昭和二十一年四月二十五日原告より返地を求めたので、被告〓次は宿毛農民組合に斡旋を賴み、同組合員は被告に全部耕作できる樣努力したが、原告應せず、結局同年六月九日被告は強制されて、原告主張の樣な当事者双方相通じた事実、虚構の小作地返還承諾書を差入れしめられたものである。

しかし原告は、自作農でなく自作の意思も用意もなく、また返還に付、農地委員会の承認をうけてもいないので、被告は依然其の土地の耕作を継続し、昭和二十二年五月十四日宿毛農地委員会に対し、先に差入れた返還承諾書の違法無効を主張し、耕作権確立の努力方を申立て、委員会は被告〓次の申立事実を確認し、同月二十二日其の決定の通知をしたものである。即ち被告委員会は調査の結果「小作関係は前年宿毛農民組合員の斡旋で解決した樣な形にはなつているが、その解約は正当の理由がなく、町農地委員会の承認もないものであり、被告〓次は法規関係を知らず原告の圧迫に堪えかね、不意ながら承諾書を差入れたもので、係爭地は依然被告〓次が事実上耕作を継続していること、原告は自作する意思も用意もなく、現に耕作した事実もないこと」を発見し、農地調停法第九條第四條同法施行令第十一條並に、昭和二十二年六月七日附縣農地部長の通牒等に基き「本件農地は被告〓次に返還すべし」との決定をなし、当事者双方に之を通知したものである。よつて原告の請求は失当であると述べた。

理由

別紙第一、二目録記載の土地が原告の所有に属し、之を被告〓次に小作させていたことは、当事者爭がない。ところが成立に爭のない甲第六、七号証に証人田中忠義、森下八百万及原告本人の供述を綜合し、被告委員会代表者並被告〓次本人の各供述の一部を参酌すると「原歴原告は被告〓次に右小作地全部の返還を求め、宿毛農民組合員斡旋の結果、其の一部たる第二目録記載の分は被告〓次より、直に原告に返還することに円満に協定ができ、被告〓次は当時之を原告に引渡したこと、並原告は同被告がその土地に既にすき返しなど手入していた費用を金銭で償還し、同年稻作より被告〓次の助力を受けず、自作していたこと」を認めることができる。被告は返還の承諾は強制されて爲されたもので、通牒虚僞したものである原告の自作は仮裝的で事実上、被告〓次が耕作を継続していたと主張するが、之に符合する証人高屋敏治、川内孫竹被告本人並被告委員会代表者の各供述は措信できない他に之を認めうべき証拠がない。

然るに成立に爭のない甲第一、二、三八号証に証人森下八百万、川内孫竹、高屋敏治、原告本人、被告〓次本人、裁告委員会代表者の各供述を綜合すると、「被告農地委員会は被告〓次の申請で右返還問題を審議し、原告よりの小作地は被告〓次が耕作するのを相当と認め、昭和二十二年五月二十二日別紙第一目録記載の土地は、原告より被告〓次に返還すべき旨の決定をして、同月二十八日其の決定通知書を作成し、当時之を各本人に通知し、被告〓次は之に基く同委員会の指示により、原告が耕作準備中の別紙第二目録記載土地に不法に押入り、昭和二十二年稻作より引続き之を耕作している事実」を認めることができる。

之によると、被告委員会の爲した通告は、農地の占有を強制的に移轉せしむる命令と解するの外はないが、かゝることは農地委員会権限として、法令上認められていない事項であり、現行農地調整法附則第三條に定める樣な裁定の権限は、当時には存在しなかつたものであるから、被告委員会のなした右決定は違法であり、其の取消を求める原告の請求は正当である。

また原告の占有を侵奪した被告〓次に対し、其の回收を求めるのも正当である。

被告は、原告に小作地の返還を受ける正当の理由がないこと、農地委員会の承認を受けていないことなどを與げて抗爭しているが、本訴は占有回收の訴であるから、かゝる本権に関する事項を以つて原告の請求を拒むことは許されない。

なお原告は、昭和二十二年十一月十一日適法な出訴期間内に本訴を提起したことは、記録上明瞭である。

それ故、原告の請求を認容し、仮執行の宣言は土地の返還を求める部分にのみ、適当と認め、民事訴訟法第百九十六條第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

(目録省略)

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